研究概要

全体概要

21世紀に入って、複数のアニオンが同一化合物に含まれる「複合アニオン化合物」が、新しいタイプの無機材料として注目を集めはじめています。酸化物や窒化物など既存の無機材料と比べ、複合アニオン化合物では特異な配位構造や結晶構造が得られるため、根源的に異なる革新的機能が現れる可能性が秘められています。異なる電気陰性度や分極率をもつ複数のアニオンを利用することで、化学結合と電子構造の卓越した制御能を活用し、革新的機能をもつ物質の創出が期待されます。さらにアニオンとなる元素にはクラーク数上位のものが多く、複合アニオン化合物は元素戦略の駆動の一輪を担う材料になる可能性があります。

複合アニオン化合物の殆どは、制御された条件の下で生み出される人工化合物であり、地球上にありふれた形で存在する酸化物をはじめとする単アニオン化合物とは全く異なる物質群です。そのため複合アニオン化合物の化学は鉱物学を基礎として発展してきた従来の結晶化学の延長線上にはなく末開拓な領域が数多く存在し、基礎学理の確立もまだ十分とは言えません。しかしこのことは、複合アニオン化合物の研究を通じて未だ見ぬ全く新しい新現象が発見される可能性が高いことの裏返しでもあります。

そこで本新領域研究では、第一に新物質を創製し、複合アニオン化合物の基礎学理を確立することで、将来の実用へとつながる材料の設計概念、方法論を確立します。第二に新しい機能性を創出することより、将来の一般社会の要請に応える化学・物理機能の芽を発見し、発展させることを目指します。研究項目A01と研究項目A02は、複合アニオン化合物の基礎研究を担当し、それぞれ「合成」と「分析」を主目的としています。研究項目A03は、応用研究を視野に複合アニオンならではの新しい「化学機能・物理機能」を探究します。

A01「新規複合アニオン化合物の創製:物質合成と設計指針の確立」

無機化合物の構成元素は数十種類に限られており、革新的な新規材料の創成のためには従来と異なる新たなアプローチが求めらています。アニオンは周期表で近い位置にあっても化学的な性質が大きく異なるため、複数のアニオンを同一化合物中に含む「複合アニオン化合物」は、単一アニオン化合物にはない特異な電子構造や結晶構造が得られ、物質設計に新たな次元を加えることが可能です。一方で複合アニオン化合物については、これまで全体を俯瞰した系統的な合成技術の開発が欠如していました。本研究班では、様々な実験手法と計算科学を駆使して合成を行い、合成手法の確立、アニオンの組成・秩序度の制御及び新構造の開拓を目指します。

本研究班の研究者は無機化合物合成のエキスパートであり、これまでに様々なアニオンを用いた物質を合成してきました。これら研究者を複合アニオン化合物の物質設計という観点から結集し、各合成手法を用いて徹底的に複合アニオン化合物の探索をすると同時に、各手法を組み合せた多重合成法を開発します。これによりアニオンの組成・局所構造、アニオン秩序度などが自在に制御された斬新な結晶構造および電子構造を創り出し、革新的な新機能を導きだします。

酸水素化物、酸窒化物、酸ハロゲン化物や三種アニオン系等を主たるターゲットとし、ペロブスカイト構造、スピネル構造などの既存の構造の複合アニオン化合物のほか、異種アニオンブロックが交互積層した新規構造の創製も目指します。複合アニオン化合物には、局所構造に新しい自由度(cis、transなど)があり、それらが集積することで結晶の中に新しい配列秩序が現れる可能性があります。本研究では、アニオンの組成だけでなく、アニオン局所構造、アニオン秩序度、アニオン積層形式を自在に制御することによって、導電性、光学特性、誘電率などの化学・物理機能に複合アニオンならではの革新的な機能を創出します。

研究代表者

  • 荻野拓(産総研・主任研究員・無機固体化学・総括、複合アニオン化合物の物質設計)

研究分担者

  • 陰山洋(京大院エ・教授・ 無機固体化学・低温還元法などを用いた新物質合成)
  • 垣花眞人(東北大多元研・教授・無機材料化学・複合的手法による新物質合成)
  • 稲熊宜之(学習院大理・教授・無機固体化学・高圧力を用いた物質合成)
  • 殷しゅう(東北大多元研・教授・無機材料化学・環境応答機能材料の創製)
  • 鱒渕友治(北大院エ・准教授・無機工業材料・機能性酸窒化物の創製と精密合成)
  • 本郷研太(北陸先端大・助教・情報科学・計算科学を用いた物質設計)

連携研究者

  • 岡本(桂)ゆかり(東大院新領域・助教・無機化学・多元系化合物の設計と合成)
  • 小林 亮 (東北大学多元物質科学研究所・助教・水溶液プロセスを基盤とした複合アニオン化合物の合成と創製)

A02「複合アニオン化合物の理解:化学・構造・電子状態解析」

複合アニオン化合物は、近年、急速発展している物質群であり、固体化学とその応用分野の革新と「元素戦略」の基軸となるポテンシャルを有しています。しかし、この物質群に対しては、酸化物等を対象とした従来の研究手法が通用せず、その結晶構造を決定するための評価・解析手法すら確立していない状態です。例えば、酸フッ化物(O2--F)系の複合アニオン化合物ではX 線回折・中性子回折いずれにおいても散乱断面積が近接するため、回折法でアニオン配置が決定できません。また、酸化物中に水素化物イオンHが安定に存在するという事実は、結晶回折法、固体核磁気共鳴法および理論計算を駆使した研究成果を受けて、最近ようやく常識として認知されるようになりました。

新物質合成の折には、その「構造」が分からなければ先に進めません。物質機能は、その「状態」が分からなければ、機能発現の起源が分かりません。そこで、本研究班では、複合アニオン化合物の新物質探索と機能開拓の鍵となる、複合アニオン系に固有の構造情報を明らかにし、物質機能の理解と予測に繋げることを目的としています。複合アニオン系に展開することで直面する物質評価の問題をテーラーメードで解決し、手法の汎用化を図り、物質探索の加速を狙います。原子分解能の分析電子顕微鏡法、単結晶回折法と粉末回折法の最新計測法と向度解析に関する第一人者を取りそろえ、迅速な結晶構造決定と、酸素とフッ素の判別問題、混合水素化物、異常原子価のアニオンの検出等に取り組む。放射光X線吸収法、電子エネルギー損失分光法や固体核磁気共鳴法、吸着法、質量分析法等に深い経験を有する研究者が結集し、低次元物質、表面吸着、脱離など動的現象や低結晶性の物質や触媒表面の元素の状態分析に取り組みます。理論計算による襄付けや系統化の手段を取り入れます。また、理論計算の専門家を中心としてA01、03班と本班で蓄積された電気的・磁気的・化学的実験データと理論計算を融合し物性予測を行います。特に、電子状態・熱力学変数・機械特性に加えて、誘電性や熱電性等の格子振動を取り扱う計算負荷の高い解析手法にも対応できる体制を整え、研究項目A03と協同して新奇物性と機能性を発掘します。方法論の汎用化を図り、研究項目A01で創出される新物質の評価を効率化させます。

研究代表者

  • 林克郎(九大院工・教授・無機物理化学・総括)

研究分担者

  • 八島正知(東工大院理工・教授・結晶物理化学・回折法)
  • 木本浩司(物材料機構・ユニット長・電子顕微鏡・局所化学構造分析)
  • 桑原彰秀(ファインセラミクスセンター・主任研究員・計算材料科学・第一原理動力学計算)
  • 吉田朋子(大阪市大複合先端研究機構・教授・触媒化学・X線吸収分光)
  • 稲田幹(九大院エ・助教・無機材料科学・化学状態分析・吸着法)
  • 野田泰斗(京大院理・助教・固体物理化学・核磁気共鳴)
  • 山本隆文(京大院エ・助教・無機固体化学・固体物性計測・回折法)

連携研究者

  • 熊谷悠(東工大元素戦略センター・講師・計算材料科学・分光シミュレーション)

A03「複合アニオン化合物の新規化学物理機能の創出」

酸素、窒素、フッ素、水素など複数のアニオンが同一化合物に含まれる「複合アニオン化合物」では、酸化物などの単アニオン系にはない特異な配位構造や結晶構造が生じ、その結果として単アニオン系とは根源的に異なる革新的機能(光触媒特性、強誘電性、超伝導性、蛍光特性、電気化学特性など)が創発することが近年明らかとなってきています。例えば、GaNとZnOの固溶体酸窒化物では、単アニオン系で実現できなかった可視光吸収が可能となり、水分解光触媒研究40年以上の歴史で誰も成し得なかった、単一の粉末光触媒上での水の可視光完全分解を成し遂げられました。また、SrTaO2N薄膜では酸窒化物では初の強誘電性の発現が報告されています。さらに、鉄酸ヒ化物超伝導体の酸素サイトの一部を水素アニオンで置換すると大量の伝導電子がドープされ、新たな超伝導領域が現れることも報告されています。このように複合アニオン化合物は、“機能の宝庫” と呼ばれるペロブスカイト型酸化物を超える高い機能創発のポテンシャルを秘めています。

本研究班では、機能創発の観点から我が国のアキレス腱であるエネルギー問題の解決を大きな目標として、創エネルギー・省エネルギーに資する複合アニオン化合物からなる新機能材料を開発します。具体的には、光触媒・光電極(前田)、イオン伝導(石原)、二次電池活物質(内本)、蛍光体(田部)、誘電体・磁性体・薄膜材料(長谷川)、熱電材料(森)、超伝導(松石)、理論計算(牛山)の計8チームによる有機的連携に基づき研究をおこない、複合アニオン化合物に特有の革新的機能を創出します。さらには、材料の高機能化に不可欠な高い合成技術をもつ研究項目A01と構造物性や機能発現機構の解明を専門とする研究項目A02と連携することで、それまで他分野の研究者との相互作用なしに単発的な研究がなされてきた現状を変え、複合アニオンを旗印とした新物質化学の発展を目指します。

研究代表者

  • 前田和彦(東工大院理工・准教授・不均ー系光触媒・総括及び光触媒機能の開拓)

研究分担者

  • 内本喜晴(京大院人環・教授・電気化学、計測科学・二次電池正負極材料の開発)
  • 長谷川哲也(東大院理・教授・固体化学・薄膜調製及び電子機能探索)
  • 牛山浩(東大院エ・准教授・理論化学、触媒化学・理論計算による新機能探索)
  • 田部勢津久(京大院人環・教授・無機材料科学・光電物性探索)
  • 森孝雄(物材機構・グループリーダー・無機材料合成、固体物性・熱電機能探索)
  • 松石聡(東工大元素戦略センター・准教授・無機材料、超伝導・新電子機能探索)

連携研究者

  • 石原達己(九大院工・教授・無機電気化学·酸素イオン伝導能と触媒作用の開拓)
  • 阿部竜(京大院工·教授・光電気化学・光電極の開発)