共同研究: 新規酸水素化物GdHO:Tb3+緑色蛍光体の発見

一般に白色LED光源は、InGaNをベースとしたLEDの青色光とCe3+やEu2+の希土類イオンを添加した酸化物・窒化物蛍光体のブロードな5d-4f可視蛍光の組み合わせによって、疑似白色を実現しています。しかしながら、室内照明やディスプレイのバックライトなど、白色LED光源の多様な用途や市場の要求により、近年、近紫外LEDが励起源として用いられたり、シャープな発光スペクトルを持つ蛍光体が利用されたりしています。希土類イオンの一種であるTb3+は、4f-4f遷移によるシャープな緑色発光スペクトルを示すことが知られていますが、高効率で励起可能な4f-5d遷移が酸化物ホストにおいては300 nm以下の深紫外に位置しているため、白色LED応用においては、4f-5d励起遷移の長波長化が求められています。一般に、小さな電気陰性度を有するアニオンから成る化合物中では、大きな電子雲膨張効果のため、希土類イオンの5d励起準位を低エネルギー化させることができます。酸素や窒素より小さな電気陰性度を持つ水素をアニオンとして希土類イオンに配位させれば、より大きな電子雲膨張効果が期待されるため、近年、アルカリ金属やアルカリ土類金属水素化物に希土類イオンを添加した蛍光体の研究がおこなわれています。しかし、これらの水素化物には空気中の酸素および水分と容易に反応して分解してしまうという致命的な弱点がありました。今回、田部(A03分担)、上田(A03連携)および松石(A03分担)らは、新規酸水素化物GdHOを合成し、これが大気中でも安定であること、Tb3+イオンの賦活で、水素アニオンによる大きな電子雲膨張効果のため、比較的長波長(300~330nm)の紫外線励起により、540 nmの発光波長を有する緑色蛍光体になることを発見しました。この結果は複合アニオン化の手法により水素アニオンの特殊な配位子としての効果と物質の化学的安定性が両立可能であることを示しています。本成果は、Journal of Materials Chemistry C誌に掲載されています。

“Preparation, electronic structure of gadolinium oxyhydride and low-energy 5d excitation band for green luminescence of doped Tb3+ ions”, Jumpei Ueda, Satoru Matsuishi, Takayuki Tokunaga and Setsuhisa Tanabe, J. Mater. Chem. C, 2018, Advance Article, DOI: 10.1039/C8TC01682H